小規模な会社の多くは、「自分が考える事業を、自分の会社で実現したい」と思い立つことがきっかけで作られます。したがって、発起人が代表取締役などの役員になることがほとんどです。しかし、発起人と役員は異なる概念です。
発起人とは?
発起人が、設立後の会社の運営に参加しなくてはならないわけではありません。発起人が責任を持つのは、会社の「設立」そのもの。具体的には、設立へ向けて、定款を作成したり、株式を発行して資本金を集めたりといった任務を果たさなければなりません。会社の設立が不成立になったり、設立に当たって第三者に損害を与えたりした場合には、発起人が責任を負うことになります。
発起人の条件
発起人になる条件は、まず「人」であること。この「人」は、一般的に理解されるひとりひとりの人間(自然人)のほか、法人も含まれます。つまり、会社が発起人となることも可能です。ちなみに、役員は自然人でなくてはならないとされています。
そして、発起人は株主でなくてはなりません。つまり、発起人は会社の設立時に資本を所有する人ということになります。発起人が役員にならない会社は、オーナーと経営者が別に存在する状態ということになります。
発起設立と募集設立
なお、設立時に、発起人のみで全ての株式を所有する形態を「発起設立」といい、発起人以外にも株主を募る形態を「募集設立」といいます。発起設立と募集設立のどちらの形で会社を設立するかを選択することになりますが、募集設立は手続きが複雑であることなどの理由もあり、多くの会社は発起設立の形で立ち上げられています。
発起人を決定する際の注意
実際に発起人を決定する際に注意しておきたいことが、すべての発起人が1株以上を引き受けることになる株式の所有比率です。株式の所有比率は、発起人のうち、誰が会社の意思決定に強い権限を持つのかということに関わりますので、慎重に決める必要があります。
普通決議と特別決議
株主は、株主総会で会社の重要事項を決定します。総会の決議にはおもに、過半数の議決権を持つ株主が参加し、2分の1以上の賛成が必要となる「普通決議」と、過半数の議決権を持つ株主が参加し、3分の2以上の賛成が必要となる「特別決議」があります。
総会で決められる事柄には様々なものがありますが、例えば、役員の選任・解任、役員報酬の決定などは、原則として普通決議が必要です。そして、特別決議で決定するのは、定款の変更、会社の解散や合併など。要件が厳しいだけに、まさに会社の行く末を決める重要事項が並んでいます。
多くの会社の設立形態である発起設立では、株式を持っているのは発起人のみ。一人で発起設立する場合は、当然100%の株式をその発起人が所有することになりますので、設立後の会社経営はフリーハンドです。しかし、複数の発起人がいる場合は、困難な問題が生じます。
2人の発起人の場合
発起人が2人の場合、どちらかが過半数の株式を所有していれば、その人が賛成する議案であれば、もう片方の人が反対しても、普通決議は成立することになります。そして、特別決議については、2人の意見が一致して初めてできることになります。
3人の発起人の場合
3人の発起人で発起設立し、33%、33%、34%の株式を所有した場合を考えてみましょう。普通決議であれば、発起人3人のうち2人の賛成が必要です。そして、特別決議であれば34%を所有している人の意思が勝負の分かれ目です。1%の違いにより、重要なキャスティングヴォートを握ることになります。
特定の誰かが強い権限を持つことを避けるため、例えば2人で株式を50%と50%に等分して所有すればよいかというと、そうとも限りません。この場合、普通決議でも過半数を取るには「全会一致」が必要となります。このような会社では、仮に2人の意見が対立した場合に、会社が動かない状態になってしまいます。話し合いの末に最終的な決定を下す人を決めておく、という考え方もあります。
中小・ベンチャー企業の立ち上げでは、気心の知れた知人や家族が発起人となるケースが多いものです。そのため、「将来的に意見が対立するかもしれない」ということを想定していないことが多くあります。
しかし、会社経営には様々なことが起こります。普段は法律を意識することなく、話し合いによる合意で会社を運営できていても、いったん信頼関係が崩れれば、法律的な権利・義務が前面に出てきます。相手が弁護士を立てて、自らの法的権利を強く主張し、まったく反論の余地がなくなってしまうことも考えられます。
会社を設立する際は、誰しも会社がスムーズに回り、順調に発展、永続することを望んでいるはずです。発起人の選定、株式の所有比率は、将来的にその会社をどのような形にしていきたいのか、ということを考えて行うべきです。その重要性を意識せず、それらを適当に決めてしまえば、会社のスタートから、後のトラブルの種をまくことになりかねないということを覚えておいてください。