基本事項を決める

会社設立の手続きを進めるためには、まず会社の基本事項を決定する必要があります。
基本事項は、会社の骨格をなす重要な決定事項なので、1つずつ慎重に検討を加えて確定して行きます。

この時、会社設立のために欠くことのできない基本事項のチェックリストや進行表を作成するとよいでしょう。
会社設立の基本事項の内容は、
1.商号を決める(社名の決定)
2.事業目的を決める(会社が行う事業内容の決定)
3.本店の所在地を定める(会社の住所を何処にするかを決める)
4.資本金の決定
5.発起人の決定(出資者の決定)
6.株式譲渡制限の有無を決定(会社の定款に株式譲渡制限を加えるか否かを決める)
7.事業年度の決定
8.機関設計(取締役や監査役等の会社役員、及びその任期、会社組織設計の決定)
です。

一般的にはこの順番に従い、また、決定手続きを並行して行いながら会社を設立して行きます。
この会社設立の準備段階を十分に行えば、設立しようとする会社全体の輪郭が浮かび上がり、設立後の活動も明確化するので、設立してすぐに事業展開を軌道に乗せることも可能になります。時間や資金の無駄は消費を削減する効果もあります。

 

1.商号を決める(社名の決定)

会社の名前のことを会社法で「商号」と言います。
会社の事業内容を示しているか、インパクトがあるか、商号から自社の主力製品やサービスを連想出来るか、親しみやすいか等様々な観点から検討する必要があります。
商号は、原則として、公序良俗に反しなければ、どんなものにしても構いません。
ただ、会社は法律上認められた権利・義務の主体であるため、会社の商号は、自分だけや内輪だけに通用する名称ではなく、社会性も考慮する必要があります。そこで、商号選定には、ある一定のルールがあります。
商号の表記には様々な決まりごとがあるので、十分に注意して商号を決定して下さい。設立する会社が株式会社なら「株式会社」合同会社なら「合同会社」と、設立する会社の形態を会社名に含める必要があります。
新会社法施行され、かつてはかなり面倒だった「類似商号」の調査は、同一住所で同一の名前でない限り認められるようになり楽になりましたが、「類似商号」の調査は、インターネット検索や電話帳だけに頼らず、必ず法務局で確認して下さい。

 

2.事業目的を決める

会社は、営利を目的とした法人です、営利は、会社が事業を営むことで発生します。そこで、会社の設立には、先ず、当該会社は、どんな活動仕事で利潤をあげるのかを決定する必要があります。これが事業目的の決定です。
会社の設立に際しては、「会社の憲法」とも言うべき「定款」を作成して登記する必要がありますが、会社はこの「定款」に定めた事業目的の範囲内でのみ、事業活動が認められます。
会社設立時の定款には、このような事情を考慮して、将来事業展開したい目的やその可能性のあるもの、更に、「定款」に具体的に挙げた事柄にかかわる一切の事業を盛り込んでおくとよいでしょう。
ただ、事業目的に違法性のないことはもちろんですが、事業目的の内容は、営利を目的とし、具体的で明確であることも求められます。定款に多くの事業目的を織り込むことは可能ですが、あまり本業と関わりのない項目を織り込めば、取引先から不信感を持たれたり、融資を受けて会社を設立する場合は、印象を悪くするリスクが生じることもあるので注意して下さい。
また、会社の事業の中には、各種免許や行政庁の許認可等を必要とするや様々な規制が存在するものもあります。十分にチェックしておくことも重要です。

 

3.本店の所在地を定める

一般の人(法律上、自然人)にも住所があるように、法律上認められた法人である会社も、その住所を定める必要があります。
会社は、本店の所在地(住所)を定める必要があり、管轄する法務局では、法人の住民票である「登記事項証明書」を発行します。
会社の設立登記の際には、本店の住所を必ず記載する必要がありますが、会社設立の基本事項決定段階では、設立しようとする会社の本店は、「類似商号」調査を行うどこの法務局の管轄かが特定出来れば良いのです。
例えば、最小行政区である東京の杉並区、川崎市、神戸市といった行政区に留めておけば良いと思います。

 

4.資本金の決定

かつての株式会社の資本金は1000万円以上、有限会社の資本金は、300万円以上とされていましたが、新会社法の施行により、有限会社はなくなり、株式会社の資本金も、最低1円からでよいことになりました。
これにより、株式会社の設立のハードルは非常に低くなったと言えます。ただ、資本金の額は、会社の財務状況を知る重要な要素であり、また、会社の信用度や事業計画、税金等にも密接にかかわるので、一般的な資本金の目安としては、半年から1年間以上の運転資金として十分な額を設定することがお薦めです。会社の創業時から十分に利益を確保することは稀と言って良く、すぐには軌道に乗らないものです。
そこで、ある程度資金面に余裕を持って、安心して会社経営ができる資本金を用意して下さい。お金に余裕のない経営は、非常に苦しいもので、チャンスがあっても資金がなく、チャレンジできない結果に繋がることも多いのです。
また、許認可等が必要な業種(一般及び特殊労働者派遣業等)では、ある一定額以上の資本金を会社設立の要件として挙げていることもあるので、この点も十分調査してください。
資本金は、先ず現金で揃えるのが原則ですが、法的には「現物出資」も認められています。現物とは、譲渡可能な財物で、賃借対照表に計上可能なものです。例えば、有価証券や不動産、車両、設備機器、また、特許等の知的財産も現物出資の対象になります。
ただ、財産価額の総額が500万円を超える場合は、不動産鑑定士や公認会計士、弁護士、税理士等の鑑定評価証明等が必要になるので注意して下さい。

 

5.発起人の決定(出資者の決定)

株式会社設立の資本金の額は1円からでも可能になりましたが、当然ながら会社設立にはそれ以外にお金がかかるので、出資する人が必要です。株式会社では、これを株主と言い、それ以外の会社形態では社員と呼びます。
一人の出資で設立する場合を「発起設立」と言い、他者に出資を依頼する場合を「募集設立」と言います。
出資額に制限はありませんが、株式会社の重要事項決定等の経営方針は出資額、つまり株式保有数(議決権)で決することになるので、他人に出資を依頼する場合は、出資額に十分注意すべきです。

他人に出資してもらう場合は、重要事項(取締役選任・解任)等の議決に必要な3分の2未満の出資額に留めておくことと良いでしょう。
これで実質的な経営権を握ることができます。

 

6.株式譲渡制限の有無を決定

新会社法の施行により、定款で株式の譲渡に制限を加えることができるようになりました。
会社法で言う「公開会社」とは、その会社が発行する株の1株でも譲渡自由である会社のことで、株式上場会社とは異なります。
株式譲渡制限会社は、「非公開会社」とも呼ばれ、その会社が発行する株式の全てが譲渡制限されている会社のことです。
株式譲渡制限会社にすれば、原則として取締役の任期は2年なのですが、この取締役の任期を10年まで延長することが可能になります。また、会社に好ましくない者の株式取得を阻止できるという大きなメリットがあります。

 

7.事業年度の決定

会社を設立する際には、事業年度を決定する必要があります。事業年度設定は自由ですが、国の年度に合わせた4月1日から3月31日まで事業年度にしている会社が多く見られます。
ただ、株式会社は、事業年度の末日から2か月以内に決算して確定申告等の決算書類を作成する必要があるため、そこで、この時期と会社の繁忙期が一致すれば大きな負担となります。会社の決算期に繁忙期が重なる状況は避けて事業年度を決定するようにしてください。

 

8.機関設計

会社の機関設計についても、新会社法の施行で大きく様変わりしました。
株式会社は、会社法で権利・義務の主体としてその存在が認められた法人であるため、我々自然人と異なり、それ自体で意思決定できる訳ではありません。そこで、株式会社の意思を決定しその意思を実現するには執行役が必要です。この意思決定を行う者や執行する者を「機関」と言います。株主総会や取締役会、代表取締役等が株式会社の機関です。
株式会社の取締役とは、会社の経営者であり、会社を代表して意思表示するものです。また、株式会社以外の持分会社(合同会社、合資会社、合名会社)では、これを「業務執行社員」と呼び、業務執行社員の代表者を「代表社員」と呼びます。
株式会社の機関設計の基本は、取締役をおく「取締役設置会社」と置かない「取締役非設置会社」の2つの大きく分類することができます。
先ず、取締役会設置会社では、取締役3人と監査役1人の合計4人の役員が必要になります。
この会社形態の会社の意思決定は、会社の最重要意思決定機関とされる「株主総会」を開催することなく、業務執行の基本事項を取締役会の決定で速やかに執行できるメリットがあります。
更に、取締役会設置されていれば、対外的には組織的で意思決定手段が明確な会社であるとの印象も持って貰えることが多いと言えます。
次に、取締役会非設置会社は、取締役1人の機関設計ができます。また、取締役会開催には、必ず開催通知を発することが必要ですが、この形態の会社では、召集の通知は必要ありません。
この他、取締役を2人して、取締役会を設置しない機関設計も可能で、この場合は、監査役の設置は任意です。
株式会社の機関設計は、代表的なパターンだけでも10数種類あるので、会社設立をサポートする専門家とよく相談して、自分の会社に一番適した機関設計を構築する必要があります。